朔は、氷雨を置いて百鬼夜行に行くことができないでいた。
このまま置いて行ってしまうと――またいつぞやの時のように百鬼から抜けると言い出すのでは…
もしくは朧と離縁して出て行ってしまうのでは――
悪いことばかり考えてしまい、夕暮れになっても縁側から動かない氷雨の袖を強く引っ張って我に返らせた。
「…ん?」
「お祖父様は調べるのに時間がかかると言っていた。このままここでぼんやりしているよりも、俺の役に立て」
「そう…だな。何をすればいい?」
「百鬼夜行について来い。何も考えず刀を振るえ。どうせあの望が原因に決まってるんだ。だからうだうだ考えるな」
朔に発破をかけられた氷雨は、ふっとはにかんで笑い、心配してくれる朔の髪をくしゃりとかき混ぜた。
「そうだな、役に立たないと。よし、じゃあ行くか」
庭には百鬼たちも集まり始めていてちゃんと役割を果たさなければと自身の頬を叩いた氷雨と朔が立ち上がった時――居間に望を抱いた朧が入って来て恐る恐る声をかけてきた。
「朔兄様……氷雨…さん…」
振り返った氷雨は、朧にしっかり掴まってこちらを見ている望をちらりと見てふいっと目を逸らした。
朧はそんな氷雨に胸が張り裂けそうになりつつも、一歩前に進み出て必死に声をかけた。
「氷雨さん、どこに行くんですか…?」
「んー、ちょっと身体を動かしたいから主さまについて行く。後のことは先代に任せてあるからお前はゆっくり寝てろよ」
「でも…でも、氷雨さん…」
「ほら、俺に構うとそいつが泣くからもう寝とけって。熱もまだ下がってないんだろ?」
氷雨の指は固く握りしめられていて、いつも以上に真っ白になっていた。
朔はそれを見てふたりの間に割って立つと、誰もが見惚れるような笑顔で笑いかけた。
「今夜は借りて行くから、母様たちとゆっくり過ごすように。いいね?」
「…はい…。早く…帰って来て下さいね」
――そのつもりはなかった。
帰って来てまた他人を見るような目で見られるのが…
怖かったから。
このまま置いて行ってしまうと――またいつぞやの時のように百鬼から抜けると言い出すのでは…
もしくは朧と離縁して出て行ってしまうのでは――
悪いことばかり考えてしまい、夕暮れになっても縁側から動かない氷雨の袖を強く引っ張って我に返らせた。
「…ん?」
「お祖父様は調べるのに時間がかかると言っていた。このままここでぼんやりしているよりも、俺の役に立て」
「そう…だな。何をすればいい?」
「百鬼夜行について来い。何も考えず刀を振るえ。どうせあの望が原因に決まってるんだ。だからうだうだ考えるな」
朔に発破をかけられた氷雨は、ふっとはにかんで笑い、心配してくれる朔の髪をくしゃりとかき混ぜた。
「そうだな、役に立たないと。よし、じゃあ行くか」
庭には百鬼たちも集まり始めていてちゃんと役割を果たさなければと自身の頬を叩いた氷雨と朔が立ち上がった時――居間に望を抱いた朧が入って来て恐る恐る声をかけてきた。
「朔兄様……氷雨…さん…」
振り返った氷雨は、朧にしっかり掴まってこちらを見ている望をちらりと見てふいっと目を逸らした。
朧はそんな氷雨に胸が張り裂けそうになりつつも、一歩前に進み出て必死に声をかけた。
「氷雨さん、どこに行くんですか…?」
「んー、ちょっと身体を動かしたいから主さまについて行く。後のことは先代に任せてあるからお前はゆっくり寝てろよ」
「でも…でも、氷雨さん…」
「ほら、俺に構うとそいつが泣くからもう寝とけって。熱もまだ下がってないんだろ?」
氷雨の指は固く握りしめられていて、いつも以上に真っ白になっていた。
朔はそれを見てふたりの間に割って立つと、誰もが見惚れるような笑顔で笑いかけた。
「今夜は借りて行くから、母様たちとゆっくり過ごすように。いいね?」
「…はい…。早く…帰って来て下さいね」
――そのつもりはなかった。
帰って来てまた他人を見るような目で見られるのが…
怖かったから。

