氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】

皆で部屋に行くと、朧は泥のように眠っていた。

起こさないようにそっと近付いた面々は、朧を取り囲むようにして座って寝顔を見ていた。


「確かに顔色も悪いし、どれ脈を……おや?熱があるようだ」


「え…?」


――妖はほとんど病に罹ることがなく、また熱を出すこともない。

だが半妖の朧ならばその可能性もあったが…晴明は少し表情を険しくさせて朧の額に掌を押し当てて小さく唸った。


「朔たちは身体も丈夫で熱など出したことはなかったけれど…おかしなことだね」


「晴明、やっぱなんかおかしいよな?記憶も曖昧だったし、確かにさっき抱き上げた時いつもより温かった…」


「念のため熱冷ましの薬を煎じておく故、湯に溶いて飲ませるように。少し様子を見ようか」


そう言って皆が立ち上がろうと腰を浮かした時――


「ごほんっ、ごほっ」


「!」


朧が、咳をした。

熱に咳…それはまさしく人の罹る病――風邪の症状であり、朔たち兄弟は今まで風邪など罹ったことがなく、皆一様に動きを止めて驚きを持ってまた朧を見つめた。


「お祖父様…」


「疲れから…ではなさそうだ。朧が起きたらちゃんと診よう」


部屋を出て廊下を歩きながら、誰もが口が重たくなっていた。

何故このような症状が出ているのか…望が関係あるのか?

それとも――


「晴明、熱っぽいっていうのはその…子ができたとか…」


「脈が速く微熱があるという点では可能性はあるだろうけれど、咳をしている。内診すればすぐに分かるからひとまずは少し時を置こう」


「…」


納得のいっていない表情の氷雨の肩を叩いた朔は、横に並んで歩きながら静かに目を伏せた。


「悪いことばかり考えるな。俺たちは半妖だから人の併せ持つ一面も持っている。風邪位引くことだってあるかもしれない」


「…そうだな」


相槌を打ちながらも――不安は募り、氷雨の端正な美貌に一切笑みは上らなかった。