「先代を‟お義父さん”って呼べるのって泉だけじゃね?怖いもの知らずだなー」


朧たちが台所へ行った後、氷雨は心の底から感嘆しながら縁側で泉たちと談笑していた。

その場には十六夜も居たのだが…お構いなしに文句を言う氷雨もなかなかのものだ。

だが本人はつゆ知らずで同じく怖いもの知らずの晴明に笑いかけた。


「扱いに慣れるとそう恐れるものでもないよ」


「…」


「そうだなー、でもやっぱ泉、お前はすごい!先代や如月の高圧的な態度にも臆さないでいられるのはほんとすごい!」


「……」


だんまりを続けている十六夜の冷淡な美貌にはありありと不機嫌と書かれてあったが、十六夜自身も泉には一目置いている。

‟お義父さん”などと言って来るのは数多くいる子らの夫であり妻たちからは一度も言われたことがなく、今も目を逸らさず話をしていた。


「如ちゃんは全然怖くないし、お義父さんも無口なだけで別に怖くないですよ。それより如ちゃんをお嫁に貰ってから一度も顔を出せずにごめんなさい」


頭を下げた泉に対して十六夜は小さく首を振って照れ隠しに茶を口に運んだ。


「…如月自身からは長い間文がなかったが、お前はこまめに状況を伝えてくれていた。今こうして如月が戻って来たのはお前のおかげだ」


「ちょっと待て。俺と朧が新婚旅行で立ち寄ったから戻って来れたんだろ。つまり俺のおかげ!」


そう迫ったものの十六夜に無視されて肩を竦めた氷雨は、晴明の虫封じの術によって随分大人しくなった赤子を寝かせている揺り籠を揺らした。


「で、朧と話したんだけど、ちゃんと節度を持ってこいつと接するから心配しないでくれ。俺と朧に子ができたらそれが一番手っ取り早いんだけどなー」


「…」


十六夜はそれも黙殺したものの、ふたりの子が産まれたならば、それは素晴らしく力に恵まれて強い子だろうなと思いつつ、末娘を奪われたことを今だに恨んでいてむかむかして口には出さなかった。

だが、早く子に恵まれればいいとは内心思っていた。