その日の夜、先に朔に話した後百鬼夜行に出たのを見送ってから、如月と泉に話しをしに行った。

朧も同席させていたが、夫を立てるため一切口を挟まず隅の方に控えていた。


「…というわけで幽玄町に戻ることになったんだ。晴明の話によれば泉の体調ももう大丈夫らしいし、お前んとこにこれ以上厄介になるわけにはいかないからさ」


「うちは別に迷惑じゃない。むしろあれの父が出張って来るのであれば捕らえて私の手で息の根を止めてやる」


「如月、お前にはこれからも裏方を一手に引き受けてもらわないと回らないから、危ない目には遭わせないぜ。泉、お前からもなんか言ってやれよ」


鼻息の荒い如月の隣に座っていた泉の顔色は確かに随分良くなり、病弱な印象はもう一切ない。

柔和な美貌は以前より男らしくなり、だが氷雨の期待とは相反して如月の手をきゅっと握った。


「如ちゃんはまだ雪男君たちと一緒に居たいそうなんだけど、もう駄目ってこと?」


「これ以上迷惑はかけらんねえって話なんだ。だから…」


「別に迷惑じゃないよ、如ちゃんが毎日楽しそうにしてる姿を見るのが僕の至福の時なんだ。だから…ついて行こうかな?」


――まさに爆弾発言。

ついて行くと言った泉の発言に一番驚いたのは如月で、その顔色はみるみる赤くなり、にやつく氷雨や同じように脇に控えていた晴明の存在にはっとして泉の手を振り払った。


「至福の時とか言うな!それに…私が幽玄町に?朧の祝言だから戻れたものの、私は…」


「変な心配すんなよ、お前の勘当はもう解けてるんだ。むしろ喜ばれるんじゃねえかな」


振り返ると、朧も大きく頷いて拳を握って見せた。


「如月姉様、一緒に幽玄町に帰りましょう。私もそうしてくれるととっても嬉しいっ」


「し、しかし……そうか…?」


「おう、お前が心配すべきなのは、息吹に構いまくられてもみくちゃにされることだからな」


それだけは避けられようがない。


「話はまとまったね。じゃあ早速荷作りしよっか。楽しみだなあ」


まだ戸惑っている如月をよそに一行は盛り上がり、赤子の父をおびき寄せる作戦に打って出た。