常々朔から小言が多いと言われる。

教育係だったのだからそれは当然のことだと自身に言い聞かせてきたが――それもこれも、百鬼夜行の当主を立派に育て上げるためだ。

そして朔に見合う嫁が見つかれば、もう自分の手から離れたようなもの。

…実はまだ風呂に浸かっていた氷雨は、滅多にない機会だからと訊いてみることにした。


「ちなみに主さまの女の好みは?」


「…お前自分が嫁を貰ったからって今度は俺に口出しする気満々だな?」


にかっと笑った氷雨に肩で息をついた朔は、湯を掬って顔を洗うと水面を見つめた。


「どうだろうな、特にない。お前が心配しなくても当主としてちゃんと妻は迎える」


「いや、俺はそういうことを言ってるんじゃないぞ。それが義務みたいな言い方するなよ。ちゃんと惚れた女と一緒になるんだぞ、時間がかかってもいいから。分かったか?」


やっぱり小言…という顔をされたものの、開き直った氷雨が湯から出ようと立ち上がりかけると、朔にくんと腕を引かれた。


「ん?」


「お前はうちに…百鬼にならなかったらどうしていた?」


「俺?んー…故郷には居なかっただろうな。腕試しっつーか、流しであちこちふらふらしてたかも」


「所帯を持つ気はなかったと?」


「俺一応いいとこの家の一人っ子だからいずれはと思ってたけど…まさか主さまの妹とはな」


ぐりぐり頭を撫でられた朔は、ふんと鼻を鳴らしてその手を払った。

だがそうしつつもこうして腹を割って話す機会は最近なかったため、ここは素直に褒めておいた。


「お前がうちに居てくれて良かった。父様とは犬猿の仲だったろうが、俺とは穏便に頼むぞ」


「おう、主さまの子、孫まで現役でいるつもりだからどんと来い」


軽く拳を打ち合わせて一緒に風呂から出て一緒に水を飲み、一緒にぐっすり寝てさらに絆を強いものとをした。