わたしのいじわる王子さま

「彼女……いる、くせに」


堪えきれずに口をついて出た言葉は、酷く掠れていた。

こんなことしないで欲しい。


彼女がいるって分かっていても、バカな私は期待してしまいそうになるから。

それなのに……こんなに苦しいのに、杉浦くんのことを振りほどけないのは、私が杉浦くんのことを好きだから。


こうして杉浦くんがそばに居ることを、不覚にも嬉しいと思っている自分が、心のどこかに存在しているから、だ。

「早く言えよ、ほら」


相変わらず私の肩に項垂れたまま、ボソッと放たれた杉浦くんの言葉。

そんなに大きな声を出してるわけじゃないのに、とても近くから聞こえるその声は、


私の鼓膜をムズムズとくすぐる。


「……な、何を?」

杉浦くんが何を言っているのか分からない私は、聞き返しながらポカン……と口を開けた。

きっと今、間違いなくマヌケな顔をしていることだろう。


「決まってんだろ?泣くほど俺のことが好きだって」


───っ!!


私の肩から顔を上げて、私を見据えたその瞳は『早く』と、急かしているみたいに見える。

どうやら杉浦くんは、私の気持ちなんかお見通しらしい。


「そしたら俺だって、素直に春奈のこと抱きしめてやれるのに」

「さっきから、杉浦くんなに言ってるの」


至近距離にある杉浦くんの整った顔は、笑う時とも、怒る時とも、意地悪を言う時とも違う……。