わたしのいじわる王子さま

彼女、いるくせに。
私にこんなことしないで欲しい。


杉浦くんはいつもそうだ。
普段はこれでもかってくらい意地悪なのに、たまに勘違いしそうになるくらい思わせぶりで


……私の心を掴んで離さない。


いっそのこと、突き放してくれたら楽なのに。
私が杉浦くんを嫌いになるくらい意地悪してくれたらいいのに。

そしたらこんなにも、惨めな想いなんてしなくて済むから。


「素直になって、どうするの?」

「……は?」


ポツリ呟いた私の言葉に、杉浦くんの眉間にシワがよる。

だって、そうじゃんか。


「今さら素直になって、どうなるの?」


もう、全部、全部遅いんだよ。
だって杉浦くんは彩帆ちゃんの彼氏になっちゃったんだから。

『私、本当は杉浦くんが好きでしたー』
『素直になれなかった今回の経験を活かして、次の恋は頑張りまーす』って?

決意表明的な?あほか。
あほすぎる。

あほだろ。


もう、涙で顔はグチャグチャだし、自分で自分が何言ってるか分かんないし、目の前で呆然と立ち尽くしている杉浦くんはぶれることなくかっこいい。


……もう、この人が私のものになる日は来ないのに。

この後に及んで、私の胸はドキドキと高鳴り続けている。


「だから、なんで泣いてんだよ」


私の手を握りしめたまま、気だるげに問いかけてくる杉浦くんにまた涙が溢れて、


「春奈」

「……っ」


私の肩に項垂れるように───コトン、と乗せられた杉浦くんの頭。

髪の毛が頬を掠めてくすぐったい。