わたしのいじわる王子さま

「……何かあった?」


私の腕を掴んだままの杉浦くんは、何も言わない私に痺れを切らしたのか、

少しだけ屈んで私をのぞき込んだ。


このタイミングで、そんなに優しい声を出すのはズルいと思う。

『他の子のものにならないで』と、今さら泣いて縋りたくなるから。



「おめでとう」

「は?」

「彩帆ちゃんと付き合うことになったんでしょ?……だから、おめでとう」


伏せていた顔をグッと上げた私は、精一杯の笑顔で最後の強がりを口にする。


今さら素直に気持ちを伝えるって言う選択肢は、私には残されていないから。

大人の対応ってどんなだろう?

もっと私が大人だったらきっと、スマートに色んなお祝いのセリフが出てきて、


自分の感情なんてサラッと隠して、嘘だってもっと上手に言えるんだろうけど。



私はまだまだ大人の女性にはなれそうもない。
だって、ほら……。


「それ、本気で思ってんの?」

「っ、」


本心じゃないってことが、すぐ杉浦くんにバレてしまった。


「俺が彩帆と付き合っても、春奈は平気なわけ?」

「っ……」


そう言って私の顔を覗き込む杉浦くんの顔には、やっぱり笑顔なんてない。


咄嗟に「平気なわけないじゃん」と、言いかけて口を噤んだ。


「……なぁ。いい加減、素直になれば」


私の腕を掴んでいたはずの杉浦くんの手は、気付けば私の手をギュッと握りしめていて、杉浦くんの体温にまた泣きたくなる。