わたしのいじわる王子さま

そこにいたのは杉浦くんと……向かい合って話す彩帆ちゃん。私に背中を向けている杉浦くんの表情は見えないけれど、彩帆ちゃんは柔らかく、楽しそうに笑っている。


『俺、彩帆と付き合うかな』


───ドクン

あの時の杉浦くんの言葉が、私の頭の中を駆け抜ける。


あぁ、やっぱり2人は付き合ったんだ。
彩帆ちゃんは、私なんかとは比べ物にならないくらい美人さんだし。


1年生なのにすごく大人びていて、それでいて杉浦くんの前ではとっても可愛く笑う。


並んで立つ2人がお似合いすぎて、コメントの付けようがない。

これで良かったんだ……って、そう頭では思っているのに、肝心な心が理解してくれない。

あぁ、もう。どうしよう。

涙で滲んで何も見えない。


涙とはすごい威力で、涙と一緒に悲しい気持ちがドッと溢れ出して止まらない。

一気に広がり始めた心の黒いモヤモヤは、あっという間に私を呑み込んでしまう。


何一つ杉浦くんに素直になれず、何一つ声に出して伝えることが出来なかった私は、失くして初めて後悔している。


もっと可愛い態度で接すれば良かった。
もっと笑顔で話せば良かった。
もっと素直に伝えれば良かった。

もっと、もっと……。


───私も、好き。


あの時の私には、たったそれだけの言葉が言えなかった。