わたしのいじわる王子さま

「さて、と」


誰もいなくなった教室。

見渡しながら私の目が止まったのは、もう随分前に帰ってしまったであろう杉浦くんの机。


自分の机と杉浦くんの机の間にまで歩けば、誰もいない教室に虚しく自分の足音だけが響いた。


『あぁ、こんなにも近くにいるのにな』って、心の中で呟いては、遠すぎる心の距離に泣きたくなった。

席が近いのはせめてもの救い?
……ううん。

この際、席替えして席も離れちゃえばいいのに。

その場合、私は1番前の席がいいな。


私より前に杉浦くんが居たら、絶対に目で追っちゃう自信しかないから。


「そんなの……授業に集中出来なくて困るもん」


やけに教室の中に響いた自分の声は、もうすっかり杉浦くんを好きだと認めていた。




***


あれから、誰もいない教室を出た私が生徒玄関の掃除を一通り終える頃には、外は綺麗なピンク色に染まり始めていた。


掃除用具を片付けた後、教室にカバンを取りに来た私は、再び生徒玄関までの道を歩いている。

バスケ部が練習中らしい体育館からは、キュッとバスケットシューズが床に擦れる音が聞こえてくる。

部活をしている人たちは、毎日もっと帰りが遅いのかと思うと、普段自分がどれだけ楽をしていたのか思い知る。


───ドキッ


生徒玄関まであと少し、というところでふと、見覚えのある後ろ姿に足が歩くことをやめた。