わたしのいじわる王子さま

杉浦くんの言葉に「まじで!?」と興奮気味に叫んだ松井くんは、ついに「松井、さっきからうるさいぞ」と、先生からお叱りを受けた。


完全にとばっちりだと思ったけれど、そう言えば事の発端は松井くんだったっけ。

……全部、全部、私をからかっているだけ。
さっきの甘い言葉も全部、全部。


杉浦くんの度の過ぎた意地悪だってことくらい、分かってるのに。

あの時、私なんて答えたら良かったの?

なんで、あんなに悲しそうな顔したの?

ほんとに、他の子と付き合っちゃうの?

授業なんて、もう一切聞こえてこない。

どんなに考えないようにしても、嫌ってくらいに頭の中を谺響するのは……


『俺、彩帆と付き合うかな』
やっぱり意地悪な杉浦くんの声───。




***

あれから、杉浦くんは私に甘い言葉を一切言わなくなった。

最初からからかわれていただけなんだろうけど。
隣の席なのに、今となっては目すら合わない毎日だ。


最近の私の頭の中は、寝ても覚めても杉浦くんでいっぱいなのに、杉浦くんの頭の中はもう、私以外の誰かでいっぱいになってしまったのかもしれない。

『今日は自分から挨拶してみようかな』なんて思っては、いざ杉浦くんを目の前にすると怖気づいて逃げてしまう。

そして『あー、また逃げてしまった』って後悔するんだ。いつもその繰り返し。


そうして今日もまた、1度も話せないまま1日が終わってしまった。