だって俺は、サッカーなんて、全然。
今日たまたま……そういう気分に、なっただけで。
言葉に詰まった俺に気づいたのか、それとも気づかなかったのか。
「サッカー、好きですよね!」
「っ、え、や……」
「見てればわかりますよ〜!ボールを追いかけているとき、すっごくきらきらしてて、思わず見惚れちゃったんです」
ああ、この人はサッカーが大好きなんだなって。
そう思ったって、彼女は断言したんだ。
あまりにもまっすぐだったから、その言葉が心の深いところにぐさりと刺さって、しばらく抜けなかった。呆然としていた俺に、きみは春風を落としていく。
「いつか、見たいなあ。グラウンドで試合をしている姿」
練習頑張ってください、応援してますって、それだけ言い残して、俺の手のひらに何かを置いたかと思えば、慌ただしく去っていく。
まるで、にわか雨。
いや、その燦然と輝く姿を雨にたとえるのはふさわしくないかもしれない。
一瞬のひかり、閃光、かな。
「……キャンディ」
彼女が手のひらに握らせてくれたのは、ハチミツ味のキャンディ一粒。
それは太陽の光をうけて、手のひらの上で、宝石のようにきらめいていた。
名前も知らない誰かに、強烈に惹かれていく感覚。あんなのははじめてだった。きっと、後にも先にも彼女にしか、こんな気持ちにはならない。
知ってる?
あの日のきみが、もう一度俺をサッカーに向かわせたんだ。
まるで、闇の中に差し込んだ、一筋のひかりだった。
きみの名前が光莉だと知ったとき、なんてふさわしい名前なんだろうと思ったよ。
高校受験の日、瑞沢に再会して、案の定きみは何一つ俺のことなんて覚えていなかったけれど、俺はあの日、心が震える心地がしたんだ。