篠宮くんにとって、お兄ちゃんに怪我をさせてしまった、あの日の出来事は強いトラウマとして残っているんだと思う。

まして、そのあとお兄ちゃんはサッカーを辞めてしまったから。



足をひっかけてしまったその瞬間をずっと忘れられなくて、ボールを奪うために足を伸ばすのをためらってしまうのだろう。



────だけど、よく見て、篠宮くん。



お兄ちゃん、サッカーできているでしょ。怪我した足もちゃんと、動いているでしょ。


ちゃんと見て。
篠宮くんが怪我をさせてしまったと思っている足はもうとっくに治っているんだよ。





「……っ」




お兄ちゃんの足は、あの事故でたしかに全治一ヶ月ほどの怪我を負った。


たしかに、リハビリを終えたあとも、怪我をする前に比べては動作が少し鈍ってしまったかもしれない。

けれど、一生サッカーをできなくなるような怪我ではなかった。




きっかけはたしかにあの怪我だったかもしれないけれど、お兄ちゃんがサッカーを辞めたのは“怪我をしたから”なんかじゃない。