合宿の二日目の夜、梶田くんから篠宮くんの話を聞いて。



私たちの学年が中学一年生のとき、練習試合で怪我をして、その先サッカーを辞めた先輩。


それも、今後の活躍に期待が寄せられていた選手。そう言われて、たったひとりだけ、思い当たるひとがいたのだ。



まさか、と思ったけれど。
そのまさか、だった。




『どう? 瑞沢ちゃん、朝陽のことすくえると思う?』




すくえない、って思っていたんだ。

だって私よりも、ずっと篠宮くんに近い人なんてたくさんいるから。




私にできることなんて、見つけられなかった。


でも、それは見つけようとしていなかったからだった。




「……っ、は」



荒い息づかいの音が聞こえてくる。


目の前で繰り広げられる、篠宮くんとお兄ちゃんの攻防戦。


有利なのは、ずっとお兄ちゃんの方だった。




対する篠宮くんは終始ガードに徹していて、なんとかお兄ちゃんがゴールを決めるのを止めている、という感じ。


ボールを奪いたい、でも、奪えない……そんな葛藤が聞こえてきそうだ。




球技大会の日のことがふとよみがえる。

くじいた私の足に、篠宮くんはひどく青ざめていた。