そんな篠宮くんに私が勝手に焦って、勝手に空回りしようとしている。



「……っ」




ぎゅっと唇をひき結ぶ。



篠宮くんをすくいたい。
なんて、愚かな願望だ。



篠宮くんが大好きだから抱いた願いごと。
────だけど、それは、私だけが抱きしめていいものじゃない。




みなみちゃんの方が、私なんかよりずっと篠宮くんのことを好きでいる。

ずっとずっと大きい気持ちを抱えている。


みなみちゃんが篠宮くんを見つめるときの瞳を知っている。
みなみちゃんはだれよりも篠宮くんを知っていて、そんな彼女にすくえないのなら、私になんて無理だ。
なのに、どうして諦められないの。




────それから。
どうして捨てられないの。



私は篠宮くんが笑ってくれるなら、なんだっていい。

その思いにひとつも嘘なんてないのに、“好きだ” ってシンプルな、まだ芽吹いたばかりで蕾もつけていないその感情を摘みとれない。



なかったことになんてできそうになくて。


そのくせ、後ろめたくて、みなみちゃんにも誰にも言えなかった。

叶えるつもりもない恋は打ち明けるにも値しないけれど。




みなみちゃんのことだって大好きだ。だからこそ篠宮くんにはやましい気持ちなんてひとつも抱かないままでいたかったのに。