「……篠宮くん」
その先に続ける言葉を思いついてもいないのに、ただ、名前を呼ぶ。
だって、なんだか、引き留めなければどこか遠くへ行ってしまいそうだった。
私の声に反応して、もう一度、瞼をあげた篠宮くん。
その奥のハチミツの瞳は、ゆらゆら揺れている。
たとえるなら、見知らぬ街に迷いこんだ子どものように。
「……怖いんだ」
ぽつり、と篠宮くんが呟く。
その唇はゆるやかな弧を描いているけれど、それは笑顔というよりは自嘲に近しい。
「怖い?」
首を傾げた私に、しっかりと頷いた。
「こうやって……誰かが怪我をするのが、すごく」
「それは……」
篠宮くんがすごく、ものすごく優しいからでは? とごく自然にそう思って。
そのまま口にしようとしたけれど、それを察したのか、篠宮くんが先回りして遮る。
「瑞沢が思ってるような綺麗な感情じゃない」
首を横に振って否定して、苦しげにその顔が歪んだ。
「心配、とかそういうのじゃなくて、もっと独りよがりなんだよ」
「……」



