教科書忘れ。
私もたまにやらかすもん。
でも、いつもしっかりしている篠宮くんにしては、珍しいかもしれない。
一日教科書を忘れるくらい本当ならどうってことないんだけど────忘れてはいけない、今は、あのタケぽんの授業中である。
想像するだけで、まるで自分のことのように背筋が凍った。冷や汗たらり。
あのオニ怖タケぽんに、教科書がないなんてバレた日には、もう物凄い集中砲火が想像できる。ありありと。
教科書を忘れたなら隣のひとに見せてもらえば、それで回避できるけれど篠宮くんの性格上────とそこまで考えて、よし、と小さくこぶしを握る。
「篠宮くん」
とんとん、と手を伸ばして机の端をノックして。囁き声で名前を呼ぶ。
篠宮くんはびっくりしたように振り返った。
「あの、教科書、私のでよかったら、一緒に見る?」
こてんと首を傾げると。
篠宮くんが、ひときわ大きく目を見開いた。
びっくりした様子。「なんでわかったの」って口をぱくぱくさせている。



