スパークリング・ハニー



机のなかから教科書、ノートを取り出して準備する。

あのね、私、数学はすごく……すごーく苦手だけど、気合いはいつも十分なんだよ。


はじまりのチャイムが鳴った直後は、タケぽんの話だって聞く気満々なの。だけど、しばらくして難しい内容にさしかかると、途端に眠くなっちゃうんだ。


今日も気合じゅうぶんに教科書を並べて、ぱらぱらとページを捲る。ええと、今日の範囲はここから、のはず。

なんて考えながら、イエローのマーカーを手に取ったとき。



「あ……やば」



って、小さな呟き声。
右隣から聞こえてきた。



誰に聞かせるつもりもなかったであろう、完全なひとりごと。

それでも私の耳がカンペキに拾ったのは、その声が、篠宮くんのものだったからだと思う。


思わず右を振り向くと、篠宮くんは何やら焦った表情で机のなかを覗きこんでいる。

探しもの、しているみたい。



「やば」



ってもう1回、小さく聞こえた。

焦った表情、篠宮くんの机にはノートとペンケース、たったそれだけ。


それで、何が起こっているのか完全に理解した。