堪えきれず、視線を少しそらす、と。
篠宮くんが顔ごと追いかけてくる、逃げられない。
「瑞沢は何してもかわいいよ」
「篠宮くんが言うと冗談に聞こえないから困る……っ」
これは切実な問題だ。
もう、ほんとうに困る。
「はは、だって冗談じゃないし」
「タチが悪い……!」
むっと頬を膨らませる。
それを見た篠宮くんは、また、ははって声を上げて笑った。
ほんと、いい笑顔。
「あんまりそんなこと言われると、私だって調子乗るし自惚れちゃうからね?」
気をつけて、って意味でそう言ったのに。
「うん。調子乗って自惚れててください」
「……っ?!」
予想だにしなかった返答に、思わずいつもの調子で白目を剥きそうになる。だめだ、落ち着いて、私。
あわあわとする私の反応がツボだったのか、篠宮くんは楽しげに肩を揺らしている。
今気づいた。
この席、心臓に悪い。悪すぎる。
それでもなんとか落ち着きを取り戻した私。
篠宮くんが “かわいい” なんて言ってくれたから、もう顔を隠す必要もない。
「瑞沢と隣の席で嬉しい」
と、篠宮くん。「私もだよ!」って即答した。
「改めてよろしく」と差し出されたその手をぎゅっと握れば、大きくてしっかりとしたその感触に、なぜかこのタイミングで “男の子なんだ” ってふと思い出してドキドキしてしまったの。



