「ごめん、そんな待てない」
「はい……っ?」
ぎゅっ、と掴まれた手首。
声もあいまって、心ごと捕まってしまった気分だ。
目を白黒させていると、篠宮くんは。
「せっかく隣の席なのに」
ちょっと寂しげな声に心がぐらんとした。
私だってそう思うよ、夏休み明け、一発目の席替えで隣。
こんな幸運めったにないのに、もったいないって。
だけどやっぱり顔は上げられなくて俯いたままでいると。
「瑞沢、顔見せてよ」
「な! だめだよ!」
だって、すごく変なんだもん。
一夜明けたって、自分でも全然慣れないんだもん。
恥ずかしくて死んじゃう。
「絶対笑うでしょ、幻滅するでしょ……。だから、絶対だめ!」
「なんで幻滅するんだよ」
「似合ってないもん……、渾身の変顔みたいなものだし」
「じゃあ、瑞沢は俺が丸坊主になったら幻滅する?」
「えっ、しないよ!?」
篠宮くんに幻滅なんて、何があってもしないと思う。
今の髪型がすごく似合っているけれど、丸坊主になったとしても、一昔前のヤンキーみたいなリーゼントにしても、たとえばザビエルみたいな禿げ方をしたとしても。



