霞くんに手を引かれながら、玄関を出ると。

ガシャン。

隣の家のドアが開く音が聞こえてきた。
その家は、うみくんのお家で。

「……凪?」

出てきたのは、もちろんうみくんだった。

「う……みくん。」

思わず、繋いでいる手を離そうとしてしまったけど。
霞くんはそれを許さず、さっきよりも強い力で手をぎゅっと握った。
それは少し痛いくらいで。
ちらり、霞くんの方を見ると。
何を考えているのか、よく分からない。そんな表情をしていた。

「その人って。」

うみくんの視線の先は霞くんで。
何か言わなくちゃいけないと思って口を開こうとしたけど。
私が何かを言うより先に、霞くんが言葉を発した。

「凪の彼氏の冬野霞です。」

心が軋む音がした。

確かに私は霞くんの彼女で。
霞くんは私の彼氏で。
間違ったことは何一つ言ってない。

だけど、私が好きなのはまだうみくんで……。
心と真実は裏腹で。
霞くんのことを少し気になり始めてるのは事実で。

それでも……。
私はうみくんの事が好きなんだって事をつきつけられた。

うみくんの方をみれば、少し驚いた顔をしていて。
でもそれは一瞬のことで。

「凪の幼なじみの水原うみです。」

すぐいつもの表情に戻っていた。

“幼なじみ”

いつまでそう言われることに傷つくんだろう。
今からうみくんは雪加瀬さんと登校するのに。
手を繋いで、ふたりしか分からない話をして。
私の見たことのない表情で笑うのに。

「行こっか、凪。」

「へ?……あっ、うん!」

微笑みかける霞くんにまた心が軋む。

うみくんのこと、忘れなくちゃ。
そうじゃないと、霞くんのこと傷つけちゃう。

繋いだ手に力を込める。
そのことに気づいた霞くんは、笑いながら力を込め返してくれた。

「凪!」

歩き始めたとき、うみくんが私の名前を呼ぶ。
条件反射で振り向くと。
うみくんは少し切羽詰まった表情でこちらを向いていた。

「うみくん、どうかした?」

「……その、話したいことがあるから今日家に行ってもいい?」

「え?」

なんで霞くんの前でそんなこと聞くんだろ。
霞くんのほうを見ると、やっぱり何を考えているのか分からない。
そんな顔をしていた。