「ありがとう、凪のおかげで助かった。」

「うみくんの力になれたなら良かった。」

「今度出かけるときは、凪におごるよ。」

「ううん、大丈夫。」

「いや、おごるよ。なにがいい?」

「……じゃあ、もうこういうのやめて。」

「え?」

歩くのをやめてその場で立ち止まると。
反応が遅れたうみくんは2,3歩先を歩いてから立ち止まり。
ゆっくりとこちらへ向いた。

「もうこうやって、ふたりで出かけるのやめよう。」

「……凪?」

「朝一緒に学校へ行くのも、放課後一緒に帰るのもやめよう。」

「凪?」

「お互いの家に行き合うのも、旅行に一緒に行くのもやめよう。」

「凪!!」

普段、大声を出さないうみくんが声を荒げた。
それでも私は動揺することなく、うみくんに本心を伝える。

「もう、こういうの嫌なの。
 彼女がいる人と出かけたりするの、正直しんどい。」

「凪、何言って……」

「迷惑なの。」

「……っ。」

傷ついた顔をするうみくんに、胸が締め付けられる。

どうして、うみくんが傷ついた顔するの。
傷ついてボロボロなのは、私の方だよ。

「凪。凪は僕にとって家族も同然なんだ。
 だから、そんなに無理に離れようとする必要ないんだ。」

「……。」

「水菜のことなら心配しなくてもいいんだ。前にも言ったとおり……」

「…………じゃない。」

「……凪?」

「そうじゃない!」

声を荒げる私に、うみくんは驚いて固まる。
……ほんとう、憎いくらいに鈍感だ。

「私、うみくんのこと家族だって思ったことない。」

「え……。」

「私、うみくんのこと家族だって思ったことないから!!」

その時に見たうみくんの傷ついた顔を、私は忘れることができないだろう。

頬を伝う涙のあたたかさが外気の寒さで奪われていく。
遊びに行くときに頑張ったお化粧も。
今じゃ涙でぐちゃぐちゃになっている。

頑張っておしゃれをしても、振り向いてもらえるわけないのに。
些細な変化にも気づいてもらえないのに。
……かわいいの一言すら言ってもらえないのに。

だけど、心は軽かった。
浮いているみたいに、足取りも軽かった。

本心を、やっとぶつけることができた。
その事実が、ただ、少し、ほんの少しだけ、嬉しかった。


それから私とうみくんは一緒に登下校をすることも。
クラスで話すこともなくなった。
家を行き来することもなくなって。

私たちは、他人だと言うことを再三気づかされた。