藤井先生というのは、口うるさいことで有名な体育教師だ。こんなもめ事の場面が見つかったら、ただじゃすまないはず。女子ふたりは藤井先生の名前を聞いたとたん、顔色を変えてそそくさと帰っていった。
彼女らがいなくなった昇降口で、わたしは先輩の背中を呆然と見つめた。
……福山先輩……なんだよね……?
ほんとに……ほんとに今、目の前にいるんだよね……?
まともに頭が働かず固まっていると、先輩がくるっと涼しい笑顔で振り返った。
「大丈夫だった?」
「あ、はいっ!」
声が裏返ってしまう。
初めて間近で見た先輩。
初めてこっちを見てくれた先輩。
突然すぎて、どんな顔をすればいいのかわからない。



