「あ、あの!これ、もらってくれますか?」


営業先からの帰り。
自分の課の階にエレベーターで降り立った時に聞こえてきた、緊張したような焦ったような女性の声。



「ありがとう。いただくよ」



あまり、聞いてはいけないと思い、足早に立ち去ろうとしたところに聞こえてきた声。
この声は、あたしのよく知る声だ。



「中に手紙もはいってるので.......」


「手紙?わかった。読むよ」


「そ、それじゃあ!これで!」



パタパタとは知っていく足音と、あたしの横を通り過ぎるときに見えた真っ赤な顔。
きっと、彼女なりに頑張ったのだろう。
好きな相手へのチョコレート。



「なぁに、覗き見してるのかな?心海ちゃん」


「うっ.......。気づいてたの」


「気配消してたつもり?」



フッと意地悪気味に笑うあたしの好きな人。
そして、あたしの旦那様。



「チョコレート、よかったね」


「なぁに?羨ましい?食べる?」



ニコニコと笑いながら、あたしにチョコレートを見せてくる。