神楽がそんなことを覚えているとは思わなかった。私との記憶は取り留めのないものなのかと思っていたから。

私だけが神楽のことを想っているかと考えてたから。少なくともその想いに違いはあったとしても。

分かってるよ。分かってるんだから切っていいんだよ。いつまでもあんな約束になんか縛られてなくていいんだよ。

神楽。あんたは優しすぎるんだ。結局のところ根はバカみたいに優しいから。だからあんたは私に言い出せずにいるんでしょ?

もう、充分だよ。

「ねぇ、神楽。今年はお祭りどうする?」

今月の末にやっている家の近くにある神社のお祭り。何個か屋台も出るし小規模だけど花火だって上がるそれはここら辺では1番大きな祭りだろう。

私が夏祭りの話題を出した時に、微かに神楽の瞳が揺れた気がした。

「どうしたの?」

平然を装って神楽の顔を覗き込む。揺れている。ゆらゆら、ゆらゆらと揺れていたものが徐々に治まっていく。