1話




 「じゃーね!葵音さん。また遊んでねー。」
 「はいはい。気をつけて帰れよー!」

 休みの日の朝早く、年下の女と別れた月下葵音(つきした あおね)は、大きく体を伸ばしながらあくびをした。


 「あー……また、遊ぶって連絡先知らねーし。まぁ、いいか。」


 春になったと言え、まだ朝は冷える。
 葵音は、着ていたジャケットの前を閉めて、近くのカフェに入って、眠気覚ましのコーヒーを飲もうと思ってたのだ。

 どこにでもあるチェーン店のコーヒーショップが目に入ったので、葵音は、その店に入ろうとした。
 すると、その道路側の席に一人の女性がじっと外を見つめいるのが見えた。


 「……美人だなー。」


 つい声が洩れてしまうぐらいに、その女性は綺麗だった。20歳半ばぐらいで、ロングの黒髪は艶があり色気を感じさせ、前髪は横に流れるようにセットしてあったが、それも自然だった。メイクはほとんどしていないのに、目立つ顔立ちで、漆黒の瞳はとても大きく、小さな顔の肌は白く、口紅はほんのりピンク色だった。白いブラウスに、花柄のネイビーの膝下スカートという清楚な服装が、彼女の品格を更に引き上げていた。

 けれど、残念な事に表情はとても険しかった。笑えば可愛いのだろうなーと、葵音は思ってしまう。
 彼女が真剣に見つめる視線の先は、ただの交差点だった。
 

 「誰か探してるのか………?」


 そんな事を考えながらも、葵音は自分には関係ないと思い直し、年内に入ってコーヒーを注文した。
 彼女の隣に座ってみたい気もしたけれど、あえて場所を離して、彼女が見える席に座った。

 先ほどから微動だにしない彼女。
 何をしてるのか、やはり気になってしまった。


 すると、日曜日の朝で暇だったのか、店員同士の会話を交わしており、それが葵音のところまで聞こえてきた。