「あ、下駄箱着いたよ。」

その声をきっかけに花澤は柚木から離れて下足場までの階段を駆け上がった。

「あ、ありがとう。教室に置き傘があるから…またね!」

多分照明の逆光で顔が赤くなっているのは気付かれていない筈だ。

昔と変わらない無邪気な笑顔を見せる柚木にどう向き合っていいか分からない。

「花澤さん、気を付けてね!」

ただの幼馴染が、同級生が、急に男になった様でビックリした。

今まであんなに近くで話しても何も思わなかったのに一体どうしたんだろう。

いつも見上げられていた視線が同じ位置になったから驚いているだけ、そう自分に言い聞かせて胸元を握りしめる。

「違う…。」

多分もう身長は抜かされているだろう、肩の位置が花澤よりも高かった。

大きな手、昔とは違う低くなった声。

思い出すだけで恥ずかしくなって花澤は両手を頬に当てた。

「昔は可愛かったのに。」

可愛らしい笑顔は変わらない、でも今日はどこかそうじゃない雰囲気に戸惑いを隠せない。

足の痛みも忘れそうなくらい花澤は柚木のことで頭がいっぱいだった。

(なんだろう、ドキドキする)

ちっとも治まりそうにない心臓に困りながら花澤は職員室へと向かった。