「入っていきなよ。はい。」

傘を広げてこっちに向けてきた。

柚木にとってそれは自然な仕草かもしれないが、花澤にとっては滅多にない特別な場面で自然と顔が赤くなる。

「あ、ありがとう。」

暗くて良かった、きっと顔が赤くなっているのは気付かれていない筈だ。

隣に並んでふと違和感から柚木の方を見る。

「…柚木くん、目線が同じだ。」

「え?あ、本当だ。花澤さんに追い付いた!」

そうやって歯を見せて笑う柚木の昔を思い出してみた。

幼い頃から背の順ではいつも前の方だった柚木はからかわれる事が多かったように思う。

本人も気にしていたようで少しでも大きく見えるようにと姿勢を正しくする事にすごく気を付けていた。

「まだまだ伸びるよ?俺の兄ちゃんも高校で10センチ伸びたって言ってたしね。俺は遺伝子を信じてるぜ!」

「あはは。遺伝子って!」

「俺には伸びしろしかない!」

自信満々に語る柚木が可愛くて仕方がない。

昔から常に努力して目標を達成していく姿を見せてくれていた柚木、彼に対して可愛らしくていじらしいという印象が強かった。

今も変わらない柚木の姿に安心する。

「花澤さんはまだ伸びてる?」

「ううん、さすがにもう伸びてないかな。」

「よしよし。そのままキープしててくれるとありがたい。」

「何それ。」

思わず笑ってしまった花澤の頭に柔らかい衝撃がきて視線を上げた。

「花澤さんを見下ろせるくらいに大きくなるからさ。」

これ以上伸びないでね、そう言いながら柚木は花澤の頭を優しくポンポンと叩く。

その手の温かさ、大きさ、距離の近さに気付かされて心臓が跳ねた。