「ない、ない、ない」
ブレザーのポケットの中、鞄の中、机の中。ありそうなところはひと通り探したけれどスマホがない。
早く行かなければいけないのに、こんな時にどうしてこう運が悪いのだろうか。早くしなければ先輩たちが帰ってしまう。
と、
「なにしてるの?」
放課後の教室、ひとりで困っているところにナイスタイミングで現れたのは幼馴染の瑞穂くん。
冷んやりとした、私しか体温を持っていなかった教室内に体温が増えた。
「瑞穂くん!ちょうどいいところに来てくれました」
「だからなに?」
相変わらず抑揚なく言葉を零しながら、面倒くさそうに廊下のいちばん後ろ。自分の席に座る瑞穂くん。こんな一大事に来てくれるなんてなんて救世主だろうか。
瑞穂くんの前の席から椅子を引き出し、じっと瑞穂くんを見つめる。けれど彼はそんな私なんてお構い無しに両腕を机の上で組むと自分の顔をその上に預けてしまった。