「お父さんの部下が、リストラされることになってね?もうすぐ子どもが生まれる予定だったから、職を失うのは可哀想だって」


「も、もしかして……その部下の代わりに辞めたの!?」


「リストラするのは誰でも良かったんだろうからね。うちの家計も厳しかったけれど、見捨てるわけにはいかなくて」



お父さんの人の良さには、そろそろ呆れてモノも言えなくなる。



「それで?それと、私に許嫁がいることにはなんの繋がりがあるの?」



そうだ。本題はこっち。
考えてみればお父さんの性格上、冗談を言ったり嘘をついてる可能性って、極めて低い。


それに、私に許嫁がいるって嘘をついたところで、なーんの得にもならない。



「その前の会社にいた頃、仲の良い同僚がひとりいてね。ちょうど、愛莉と同い年の子どもがいるってこともあって、話が盛り上がってな〜」


「……まさか、その仲の良い同僚の子どもが私の許嫁なの?」


「そうなんだ。……とは言っても、"お互いの子どもをいつか結婚させよう"っていう、軽いノリの口約束だったんだけど」


「今朝、お父さんの携帯に連絡があったんですって」


お母さんに助けを求めるように視線を泳がせたお父さんを、すかさずお母さんがフォローし始めた。


本当にこの夫婦、仲が良いんだから。