「億単位を動かす巨大プロジェクトだぞ?それくらいいいだろ?」



「無理なものは無理なんですっ…!」



意地張ってるけど、出逢った頃の淡々とした断り方と違う。
本気で嫌がってない気がするのは思い過ごしか?
目も合わせないのはもしや照れてる?



「じゃあ、副社長命令な?」



あ…っと驚く真っ赤な顔を残して会議室へ入っていく。
慌てて後ろについて隣に座る。
控えめに手で顔を扇ぐ仕草が俺にとってのツボ。
そうやって意識してろよ。



会議開始直後にある問題が発覚した。
フランスから来たキーパーソンであるポール氏が渋い顔をして訳のわからないフランス語で訴えている。



通訳イヤホンをつけるが上手く聴き取れない。
わざと早口で喋りっぱなしで誰も太刀打ち出来ない状況に陥る。
おい、誰かわかる奴居ないのか?
俺も英語なら出来るが……
ヤバイな、機嫌を損ねさせる訳にはいかない。



ポール氏はやってられないとばかりに席を立った。
あまり良い表情ではなく資料を見ずにドアに向かう。
帰るつもりか?
何としてでも止めなくては…!



俺と同時に立ち上がった深山。
聴き慣れない言葉をいくつか喋り、その場に居た全員の視線を奪った。
すぐにポール氏の側に駆け寄りまた声をかける。



今にも怒り出しそうだったポール氏が徐々に落ち着きを取り戻す。
時折笑顔にもなったりして……
なんと流暢なフランス語なんだ……
身振り手振りで話しながら再びポール氏を席に着かせた。