「浅井、おまえにとって俺は鬼上司なのかもしれない。だが、おまえに厳しくするのは、おまえに伸びしろがあると思っているからだ。やる気のないヤツ、見込みのないヤツに、いちいち構ったりしない」

 課長が顔を近づけて私の目を覗き込んだ。整った顔と距離が近づき、しかもその顔が予想外に優しくて、ドギマギしてしまう。

「わかるな?」

 念を押すように言って、課長が立ち上がった。

「さて、豆を片づけるか」

 課長は立てかけてあるコードレス掃除機の方に向かっていく。

 普段の課長からしたら、想像できない行動だ。

 だって、私、課長を鬼に見立てて豆を投げたのに!

 挙げ句の果てに、「鬼課長は外!」なんて言ったのに!

「か、課長!」

 慌てて呼び止めると、課長が肩越しに私を見た。

「どうした?」
「どうして……怒らないんですか? 私、課長のことを……」
「鬼って言ったのに?」
「はい」

 課長はゆっくりと私に向き直った。

「浅井の持論でいくと、イケメンならなに言っても許されるってわけではないんだよな。だが、俺の持論では、かわいい部下ならなにをしても許してしまうだろうな」

 課長は私に背中を向けて、「特に浅井なら」と言った。