「あ、あのっ、か、か、課長のことではなくてですねっ、その、節分だし、日頃のストレスを晴らそうと思って~……まあ、そのぅ……」
「日頃のストレスは俺、というわけか」

 課長は私の横をゆっくり歩いて、自分のデスクに浅く腰かけた。そうして床を見回す。

 私が投げつけた豆がそこら中に散らばっていて、課長の椅子の背には鬼のお面が貼ってある。これは……どう見たってバレバレだ。たっぷり怒られるか……悪くすればクビ、とか。

 そんな想像にぞっとしたとき、課長がふっと笑みをこぼした。

「見事に豆だらけだな」

 そう言っておかしそうに笑う。お小言を覚悟していた私は、予想外の反応にぱちくりと瞬きをした。

「お、怒らない……んですか?」

 おずおず問いかけると、課長は丸めて持っていた紙で、私の頭をポンと叩いた。

「おまえが出した修正案をチェックしていたんだ。この線で修正すれば、GOサインを出してやれる」

 ええと。つまり、課長はパーティションの向こうで、私が帰る間際に提出したイベントの修正案を見てくれていたというわけで。ということは、やっぱり私の言葉は聞かれていたはずで。

「あのぅ、課長」

 謝ろうとするより早く、課長が言う。