みんなは私のように残酷な体験はしたことがないと思う。


朝起きたら大好きなお父さんとお母さんがいなくなっていて、
おまけに病気になっていたなんて。


誰が聞いてもかわいそうだと思うでしょう。


なんてかわいそうな私。
誰か私を優しく慰めてほしい。





さて、状況を整理しよう。


私の病気は前向性健忘と言って、
新しい記憶が保たれなくなる病気らしい。


何がどうなっているの?
全然分からない。



施設長だというおじさんから話を聞いて、
日記というノートを読み返して、
私は分かったことが一つある。


私の未来に希望はないってこと。


今までの私もだいぶ拒否反応を起こしたみたいだけど、
今朝の私はもっとひどかったと思う。多分だけどね。


「波留ちゃん、落ち着いたかい?」


「うん」


「今日も出かけるかい?」


「……うん」


納得いかないけれど、
私は高校もやめて暇になったみたいだし、
やることもこれといってないから
日記の通りにしてやろうじゃないの。


もう半ばやけくそで私は施設を出た。


喫茶店なんかに行って楽しいのかな。


ショコラミントを飲めるというのはいいのかもしれないけれど、
暇を潰すにはちょっと苦しい場所になるかもしれないのに。


なんだか今までの私はこの日記に登場する
榎本尚央って人に会いに行っているように思えてならない。


そんなに会いたいのかな。
というか、今日も会えるとは限らないんじゃないのかな。


なんて思いながらも、日記の通りに
喫茶店「ヴァポーレ」に着いた。


可愛らしい感じのお店だった。