尚央は得意げに笑って見せると、
ドイツ語で歌い始めた。
聴いていると心地いい。
負けてなるものか。
今の私にぴったりの曲だと思った。
負けるか。負けてたまるか。
私は今の私に起こっている悲劇をひっくり返してみせるんだ。
「日本のものは聴かないの?」
「聴くには聴くけど。
何?日本のものがいいのか?」
「ううん。気になっただけ」
「そうか」
尚央は、ははっと笑うとCDを取り出して元のCDを入れた。
また英語の曲が流れる。
基本的にはこれが好きなんだなとふと思う。
尚央はやっぱり歌を口ずさみながら、静かに運転した。
私もその歌を聴いて黙っていた。
このハスキーボイスが何故だか落ち着く。
もっと聴いていたいと思った。
行きよりも帰りは早くに着いた気がする。
車を降りると、すっかり日も暮れていた。
ぼうっと空を見上げていると、
尚央がいつの間にか隣に立っていた。
「さ、行こうか」
「えっ?」
「家に帰るんだろ?」
「そうだけど」
「行くぞ」
尚央は私の手を引いて歩き始めた。
まず「ヴァポーレ」までの道を戻る。
スタスタと歩く尚央について行くように私も歩を進めた。
正直、店から駐車場までの道のりを覚えていなかったから
ついてきてくれて助かる。
周りを見回しながら、引かれるがままに歩いていた。
「さて、ここからは道知らないから、教えろよ」
「う、うん」
店まで着いて、尚央は何故か得意げにそう言った。
教えてもらう態度じゃないと思ったけれど、
私も人のことを言えない。
これは送ってもらう人が思うことじゃないな。
そう思って、私はその思いを押し込んで、
今度は私が尚央の手を引いて歩き出した。
ノートに書かれた目印を思い出して歩く。
その間、尚央は一言も喋らなかった。
ケータイを操作しながら、私の隣を歩いている。
何をしているのか気になったけれど、深くは聞かなかった。


