高校生はきょとんとしてしばらく黙った。
ああ、信じてもらえない。
変なやつだって思われたかな。
でも、私はどうして初対面の人にこんな話をしているんだろう。
やっぱり無視すれば良かったかな。
いくら知らない人でも、変な奴認定されるのはちょっと嫌だ。
顔を上げると、高校生は微笑んだ。
えっ、何?その微笑みはどういう意味?
「そっか、じゃあ、初めましてだね。
俺、榎本尚央。二十三歳の大学生。よろしくな。波留」
「に、二十三歳?」
「そう。そう見えない?もっとおじさんに見える?」
逆。昨日の私も、今の私も、
ずっと高校生だと思っていた。
若そうに見えて、大人なんだ。
二十三歳ってことは、六歳も年上。
とてもそんな風には見えない。
高校生改めまして、尚央はにっこりと笑って、
自分の飲み物に口をつけた。
飲み物を飲む姿が色っぽい。
グラスから口を離して、尚央は唇を舐めた。
ペロッと見えた舌が妖艶っぽさを醸し出している。
その姿に不覚にもドキッとした。
「ていうか、やっぱり波留だよな?
良かったよ。人違いかと思った。
昨日もその前も、笑いかけても無視されるから、
ちょっと心折れそうだった」
はははっと笑う。
尚央は私の目を見て、真剣な顔つきになった。
「なぁ、五ヶ月も何してた?
あれからずっとお前を探していたんだぞ」
「えっと、ごめんなさい。
私、五か月前のことはよく分からなくて」
「そうか。前向性健忘だったよな」
「その病気、知っていますか?」
「知ってるよ。メモや日記はつけてねぇのか?」
「四日前からなら……」
私はノートに目を落とした。尚央もノートを見つめる。
「MEMORe:」にはたった四日の記憶しか記されていない。
五ヶ月も経っていて、たったの四日。
今までの私は何をしていたんだろうとふと考える。
もっと早くこの方法を思いついていたなら、
きっとこの人のことも理解出来たんじゃないのかな。
唇を噛みしめて、きゅっと目を閉じた。
情けない。今の私、空っぽだ。


