朝の陽ざしが顔を射す。
ゆっくりと目を開けて起き上がった。



ぼうっとする頭で考える。
ここはどこ?




青いノートが目に入った。


表紙には「MEMORe:」と書かれている。


そのノートを捲って目を通すと、
とてつもない衝撃が私を襲った。


前向性健忘。
記憶が保たれずに失くなってしまう病気。


そんな病気にかかってしまっていることを知って、絶望する。


おまけに両親も死んでしまったなんて……。



この世の終わり。
死んでしまおうか。そうも思えた矢先、
最後までこのノートを読んで私は頬が緩むのを感じた。


なんだろう、この感覚は。







涙を拭いて着替えると、玄関に行き靴を履く。


後ろから一人のおじさんが顔を出した。


「波留ちゃん、行くのかい?」


「施設長」


「気を付けて行っておいで」


「うん!」


手にはノート、ポケットには鍵とプレイヤーを持って、
外に飛び出した。


公園があって、曲がり角までまっすぐ。
そこで右手に曲がって、蛙、蛙……。


薬局があって、その向かいにはコンビニがある。
そのコンビニの隣に……ログハウス風の洒落た建物が建っていた。


看板には「Vapore」と書かれている。


そのお店の扉を開けると、カランコロンと音がした。



「いらっしゃいませー」


中から女の店員さんが出てくる。


「真理愛さん!」


「あら、波留ちゃん、いらっしゃい」


奥から男の店員さん、雅文も出てくる。
雅文はべぇっと舌を出して、それからにこっと笑った。


「いつものでよろしいですか?」


「うん!」


私は笑顔で頷いて、窓際の一番奥の席に座った。


すぐに飲み物が運ばれてくる。


それに一口口をつけると、カランコロンと音が鳴った。