朝から私の感情は忙しく荒れ狂っていた。


大好きなお父さんとお母さんが亡くなったという悲しい現実に、
前向性健忘という病気にかかったという衝撃的な事実。


そして尚央という男の最悪な仕打ち。


全てを知った時、私の頭はパンク寸前だった。


特に尚央との昨日の出来事には驚いた。


幸せを感じたのも束の間、
どん底に突き落とされるショッキングなことが起こったなんて、
あまりにも酷過ぎるんじゃないの。


どんな男だ。
昨日の私はこの男を一発殴ってやったみたいだけど、
殴り足りないと思う。


会うことはないと思うけど、
もし会ったら今日の分としてもう一発殴ってやりたい。





一昨日までの私は尚央の存在をとても大切にしていたし、
お父さんとお母さんが亡くなっても私には尚央がいると思えたみたい。


でも今の私はどう?
それすらもなくなって、
私には一体、何があるっていうの?


施設長だと名乗ったおじさんに補足説明を受けて、
状況を整理する。


私はこれから、どうやって生きていけばいいのかな。


「波留ちゃん、今日も出かけるかい?」


「うん」


ぼうっとする頭で施設長の言葉を反芻させる。


今日も出かけなくちゃ。
どこに?
でも、喫茶店に行けば尚央に会ってしまうのかもしれない。
それだけはなんとなく避けたいと思った。


「……ちょっとだけ」