「お線香、上げさせてもらっていい?」


その言葉に元夫が頷いたのを見て、私は用意してきたお花とお菓子をお供えして、遺影と遺骨に手を合わせる。


心の中で、お別れの言葉を送った私が、合わせていた手を離して、遺影に一礼すると


「ありがとう。君が来てくれて、母親もきっと喜んでるよ。」


と穏やかな、私の知っている口調でお礼を言ってくれる元夫。


「おいくつだったっけ?おかあさん。」


「63。」


「そっか・・・早すぎるね。」


私は在りし日の優しかった元義母との思い出に、心をはせる。


「本当はもっと早く来たかったんだけど、いろいろあって。」


「調べられてたんだな。」


「ごめんね。」


「いや、君の立場からすれば当然だよ。」


私達は顔を見合わせるが、すると突然、元夫が


「すまなかった。」


といきなり私の前に跪いた。


「君には酷いことをしてしまった。なんてお詫びしていいかわからない。信じてもらえないだろうけど、もう少し落ち着いたら、僕の方こそ、君のところへ伺うつもりだった。」


「・・・。」


「お金のことはもちろんだけど、僕は許されないことをしてしまった。後悔してる、嘘じゃない。あんなことをするつもりはなかったんだ、なのに・・・本当にごめんなさい。」


「謝ってもらってもこの間の事は、いくら元夫婦でも、絶対に許すつもりないからね。」


その私の言葉に、元夫はうなだれる。


「お金のことだって・・・なんであんな脅迫の真似事する必要があったの?ちゃんと話をしてくれれば、私、出来る限りの協力はしたよ。ううん、させて欲しかった。」


「正直に話せば、君を苦しめると思った。君は、僕たちの苦境を、自分のせいだって思うに違いないから。」


「そんな・・・。」