美味しい料理、それに合わせて変わるお酒にわたしの幸福度は増していた。決して100パーセント楽しめる状況ではないのに、好きな人と‥こんな素敵なところにこれたということだけで舞い上がってしまっていた。
「わぁ、このお肉とフォアグラ‥‥とろける。幸せ。美味しい〜!!!たまんないです!!」
メインの牛フィレ肉とフォアグラのロッシーニを食べながら、本気で泣きそうになった。
最後の思い出‥まさかこんな素敵な思い出ができるなんて思いもしなかった。一途に想い続けていてよかった。神様がきっと‥わたしに哀れみをくれたんだ。それでもいい、本当に嬉しい。
目の前で笑う望月さんがいる、それだけで幸せで本当にこのまま時が止まってしまえばいいーーそう思った。
ーーブー、ブー
そんな中一気に現実に戻す、着信のバイブ。わたしのスマホで‥相手は森戸。なによもう‥せっかくいい気分なのに。マナーモードにしていてよかったけど‥。
「ご、ごめんなさい。ちょっと、出てきてもいいですか?急ぎかもしれないので」
もしかして今日の資料が間違ってたとか?でももう21時だし直帰って言ってたし、仕事ってことはない気がするけど。
森戸から電話がかかってくるなんて同期になって5年。もしかしたら初めてかもしれなくて何かあったのではと心配になる。
「あぁ、‥嫌だ」
「すみません、‥っへ?」
いいよ、と言われるつもりで半分腰を上げていた。
えっ?嫌だって、言ったの?
聞き間違いかと思い、一旦腰を下ろす。彼を見つめると、‥苦々しそうな表情をしていた。見たこともない、いつも王子スマイルな望月さんの、そんな苦しそうな顔。
何も言えなくて。というより、言っちゃいけない気がして、今なんて‥と聞きかけた唇を閉じた。
彼をただ見つめることしかできなかった。
じっと、見つめていると。苦しそうに、哀しそうに、そんな悲しい顔をしないでとこっちまで悲しくなってしまうような表情で望月さんは言った。
「今、君の中にいる男は‥もう俺じゃないのかな?」
そう、ポツリと、零すように‥‥

