2月14日。

「おはよう、何か俺に渡すもんある?」

朝からなにが言いたいのか。まさか、バレンタインのチョコを強請ってるの。言わんとすることは分かったけれど取り合うのが面倒臭くて、
「あ、これね。昨日頼まれた英文訳‥結構残業して頑張ったんだよ」と、依頼されていた資料を返した。
森戸にあげるお菓子は普段あっても、わざわざバレンタインに渡すお菓子はない。

そんなわたしの態度に面喰らったかのように、森戸は「ありがとよ‥‥」と呟いて自席に行った。

なんとか追い払った。ホッとした気持ちでデスクの足元内側にかけている高級な紙袋をちらりと見たあと、望月さんを見た。
あぁ今日もかっこいい。いろんな人にチョコ、貰ったのかな。もうすでに。

そんなこと思いながらうっとり望月さんに見惚れていると、彼に近づく総務部の女性に気づいた。手には紙袋。高いやつだ‥‥。がっつり本命チョコ。お返し目当てなんてせいぜい1000円くらいだもんね。
紙袋見ただけでわかる、ちゃんとしたものを買えばそこのチョコ5000円くらいはかかる‥。

赤い顔で渡す総務部の女性と困ったように笑う望月さんを見ていられなくて、そっと席を立った。




「弱虫〜」

いつものごとく、デパートの屋上でランチ。
デパートで買うのは高いけれど、朝自分のためだけに作る気の起きないわたしにとっては、栄養バランスと女性に嬉しいダイエット向きの食材が兼ね揃えられているお弁当は嬉しい。

紗奈の弱虫という発言に何も言えず、パクチーサラダを食べる。前は食わず嫌いだったけど最近はなんだかんだ自分で選べるお弁当にわざわざパクチーを選ぶくらいには好き。

「もうさ、告白しちゃえばいいと思うんだけど」
「無理、わかってるでしょ?5年間好きだったのに今更告白して気まずくなって気使われて‥‥なんて最悪すぎる。というかそもそもわたしが振られて普通に接する自信がないの」

そんなわたしの言葉には何も言わずに、そっと卵焼きをわたしのお弁当に入れてきた紗奈。
紗奈の卵焼き、大好きで‥‥紗奈も自分の卵焼きが大好きだから滅多にくれないんだけど。

「ありがと」
「もうしばらくしたらあげれなくなっちゃうからね。ストレス発散の飲みにも付き合ってあげれないし。今はわたしの卵焼きで我慢して」
「紗奈の優しさに包まれた卵焼きは飲みより哀しみもストレスも軽減されるわぁ。‥‥んーっ今日も美味。浩介さんが羨ましい」

紗奈の旦那さま、浩介さんを羨んだ。羨む方向を間違っている気がするけれど‥‥。