気張って『瞑想する白』と名付け、サンプルを持参しプレゼンを行った。
漆喰の代用品などではない。違うかたちでの白の提案。

そのアイディアが、財団の理事長であり創設者の未亡人でもある婦人の心をとらえたのだ。
齢は70歳をとうにこえているだろうが、背筋はしゃんと伸び、白い髪をきれいに結い上げている。
話す声は明瞭で張りがあり、たたずまいには威厳さえ感じられた。

「なんと清冽で潔い。心洗われるようです。訪れた方はエントランスホールでこの白に迎えられて、まっさらな気持ちで、夫が愛した美術品たちに向き合うことができるでしょう」

その賛辞に、圭介はただ頭を下げた。

けして大きな仕事、ではない。
だが入社以来、いちばん嬉しい出来事だった。ようやくひとつ壁を越えたという実感があった。

ささやかながら祝杯をあげたい気分だった。そしてその相手はひとりしかいなかった。

目立つことはなくとも、谷の奥にひっそりと、しかし確かに咲いている花のようなひと。

彼女と乾杯したい。柔らかな色をしたプレスガラスのコップで。