『いや、何でもない。あ、そうだ。カウンセリングの時間なんだけどさ』
「え、あ、はい」
『みさおさんだったら、明日の最終にカウンセリングしてあげられるよ。どうかな』
「え、そんな! 突然、お電話したのに。他の方の順番に、迷惑かけてしまいませんか?」
『さすが、みさおさん。気にし過ぎ』
吾妻さんが苦笑いしているところが、想像できる。
「で、でも! 特別扱いみたいなことをされるのは、嫌です」
『大丈夫。特別扱いなんてことは、ないよ。単に、丁度良いと思って』
「丁度良い?」
『俺、明日は、みさおさんの会社に、ずっと居るから』
「え? な、何、どういうことですか?」
『明日、来てくれたら、そのときに説明させてもらいますよ』
腑に落ちない私を置き去りにして、吾妻さんは「明日のカウンセリング」の話を進める。
『──それじゃあ、17時半から。2階の一番奥の使われていなかった部屋をお借りしてやっていますので』
「……わかりました。よろしくお願いします」
挨拶だけをして、モヤモヤしたまま電話を切る。
思いもよらない展開に、ついていけていない。
とりあえず、私の頭に残っていたのは、予約の日時と、怖いくらいにただ優しかった吾妻さんの声だった。



