「あの……カウンセリングをお願いしたいんです。でも、少し迷っていることもあって……」

『迷っているんですね。それは、どのようなことですか?』

「カウンセリングしていただく程のことなのか、どうか……」



カウンセリングといえば、もっと重苦しい悩みを抱えている人がしてもらう場所というイメージがある。

私のこんな、友達に相談すれば良いようなこと──。



『些細なことと感じる悩みも、あなたを苦しめるなら、それも重大なことだと思いますよ』



優しく諭す、その口調はみっともなく焦る私の気持ちを、一瞬で静かに導く。

あの飲み屋さんで、少し気の障る発言をする人と、同一人物だとは思えない。

吾妻さんの一言が、私の背中を押した感覚がした。

有り得ないけれど、本当に背中に触れられたような感触がした。



「是非……よろしくお願いします」

『はい。こちらこそ、よろしくお願い致します。では、お日にちを決めましょうか。ご都合がよろしいのは、いつですか?』

「私は、いつでも大丈夫です」

『そうですか。……直近ですと、来週の火曜日、最終のお時間になりますね』

「じゃあ、その日でお願いします」

『わかりました。では、ご予約させていただきますので、お名前を教えていただけますか』

「うっ……」

『……? どうされましたか』



いずれは、名乗らなければいけないことは、分かっていたけれど、一体どんな反応をされるのか不安になる。

やむを得ず、恐る恐る名乗る。



「い、伊勢と言います」

『……』



電話口の向こうから、声が聞こえなくなった。