ユウくんと、あの女の子が2人きりのオフィスで言い合う場面を目撃してから、数日が過ぎていた。

親しげと言うには、少し違った。

彼女は軽い口調でずっと居たけど、甘い雰囲気になる訳でもなく、かと言って、他人行儀な訳でもなく。

とにかく、私が易々と入っていけるような空気ではなかった。

それに──。

『彼女さんがそんな態度で居るなら私、奪っちゃいますよ? 私の方が先輩を癒せる自信ありますから』

あのときの、彼女のあの言葉は、ユウくんに対してじゃない。

私への、宣戦布告だ。

ここ数日間、こんなことを悶々と考え過ぎてしまった。

それでも、ユウくんから疎らに届くメッセージには、何も無かったように返信をする。

本当は真っ直ぐ向き合えたら、一番良いのに。

いつまで、こんな風に羊を被って、気にしない振りだけを続けるんだろう。

本人を前にしたときに、必死で偽る自分をやめたい。

そして、私はそう心に決めて、一枚の名刺を手に取ったものの、未だにぐずぐずしていたのだ。

斯くして、今、車の中に1人で居た。

仕事も終わり、帰ろうとも思ったが、ここで先延ばしにしたら、また悶々と悩む期間も延びてしまう。

そう思ってもまだ、名刺といつまでも、にらめっこを続けていた。

名刺に書かれた名前だけを見れば、電話をかけやすい相手なのに。

ここに相談すれば、始まることもある。

しかし、失うこともある気がしてならない。

少し怖い。

スマホを握り締める。

その瞬間に、スマホが震えた。