扉を開けたのは、一人の青年であったようだ。
すると、店長は私の時とは違い、彼に対しては、少し声を明るくして迎える。
「お前、また来たのか。相変わらずだな」
「うるせぇな!余計なお世話だよ」
「何だ?また仕事でヘマやらかしたのか?」
「ああ、その通りだよ!もうやってらんねぇよ!畜生」
苛立つ青年は、何故かしら迷いもなく私の隣のカウンター席に、どかっと座る。
この彼にだって、何かしらの理由があり、悩みがあり、店長に傷を癒してもらいに来たのだろう。
しかし、私だって同じだ。
私だって、今日起きた出来事による傷心を癒してもらいたくて、この店に辿り着いたのだから。
私だって、話を聞いてもらいたいのに。
話を聞いてもらい発散することを諦め気味に、先程、出されたまま放置していたカクテルを口に含む。
その瞬間、脳まで衝撃が走った。
程好い柑橘系たちの酸味に遅れて、やって来るバランスの良い甘味。
思わず、反射的に声が出た。



