「勝手にどうぞ」
私が呆れて返事をしても、吾妻さんが動く気配がない。
「どうしたんですか?行くなら、早く行ってください」
「……そういえば、今日は送っていかなくて大丈夫?」
「大丈夫です。今日は最初から、代行を頼むつもりだったので」
「あ、そう。それなら、いいけど」
「明日、早いんですよね」
「はいはい、行きますよ」
今度こそ帰ると思ったのに、少し行った先で吾妻さんは振り返る。
「吾妻さん。そろそろ、しつこい──」
「みさおさん。言っておきたいことが、あるんだけど」
呼ばれた声、振り向いた表情があまりにも大真面目で、思わず目が離せなくなった。
先程までの、おふざけなんて無かったかのように、そこに居るのは、まるで別人のように思えた。
本来なら、それほどのことでもないはずが、不思議と次の動作が思い浮かばない。
ただ吾妻さんの表情から、目線が外せないで居る。
そんな私をどう思ったのか、吾妻さんは笑うでもなく、眉尻を下げる。
「問題は早いうちに何とかしないと、手遅れになるよ」
「はい?」



