何気無く、店長と目が合う。
私の隠そうとした気持ちも、容易に汲み取る店長は、やはり怠惰な見かけによらない。
そして、感心はするが、羞恥心が勝る。
そんな複雑な想いが渦巻く私に、店長は無表情のままで言った。
「泣きたいときは、ちゃんと泣かないと。病気になるから、さ」
「ん……」
たった今は、店長の本当はちょっとしたつもりの一言が、私にはひどく響く。
無言で私の前に差し出されたカクテルはオレンジ色など、暖色のグラデーションだった。
綺麗だ、ただそう思って、しばらく見つめていた。
それから微動だにしない私の正面に、店長がやって来てくれた。
そして、出されたカクテルを指差す。
「恵みの太陽」
「え……?」
「それ。今日のおまかせカクテル。『恵みの太陽』です」
そう言ったとき、ほぼ無表情だった店長が、初めて控えめに微笑んだ。
「お客さんがいつまでも辛そうにされているので、少しでも早く晴れ間が覗くように……作らせていただきました」
いつもに比べ、突然に饒舌になった店長に驚かされ一瞬、涙もおさまる。
「あ……」
「よかったら、何があったのかくらい話してみてください。溜め込むのはあまり良くな──
扉が勢いよく開けられた音が、店長のせっかくの台詞を遮った。



