「みさおさんの会社にお邪魔して、お茶出してもらったから」
「ああ、そんなことですか。こちらもお仕事ですので」
「つれないなぁ。お茶、美味しかったです。ありがとう」
「いいえ……」
やっぱり不思議に思っていた。
この人には一切、取り繕わずに接することが出来ている。
ユウくんに向ける愛想笑いも、ユウくんを極力、傷付けないようにと言葉を選ぶ頭も、この人には何一つ必要が無い。
人に対して、そういう態度をとってしまっている私自体は、どうかと思うけれど。
それでも、吾妻さんは傷付いている様子には、まるで見えない。
だからかもしれない。
吾妻さんという人が、そういう人だから、私が甘えてしまっているんだ。
正直に言って、この人にはほとんど気を遣っていない。
「みさおさん?俺の顔に何か付いてる?虫でも止まってる?」
考え事をしていたら、無意識に吾妻さんに視線を向けていたままだということに気付いた。
しかし、それよりも吾妻さんの台詞になのか、顔になのかは自分でも分からなかったが、吹き出してしまった。
「あははっ、虫なんて、止まってませんよ。そんなこと言う人、私、はじめて聞きました」
「え、今のそんなにウケる?」
「あはっ、可笑し……」
笑い過ぎて出てきた涙を、指で拭う。
ふと見た吾妻さんの表情は、びっくりするほどに、優しく微笑んでいた。
驚いて、私は一瞬固まる。
「今日は、元気そうだね」
「え、ええ、まあ……」
「今日の午前中も、まだ少し浮かない顔してたから、まだ解決してないのかなー、って思ってたけど」
「え、そんなつもりは無かったんですが。私、そんな顔してましたか」
「してた」
「そんな……」



