それからの私は、何事も無かったかのように、デスクのパソコンに向かっていた。

しかし、思った通り、いまいち集中が出来ない。

どうしても先程の出来事が、頭を過る。

ユウくんとたった二人の密室の空間で「好き」と言った。

あの場を平穏に収めたいがために。

後ろめたい気持ちが残る。

こんな気持ちのままで、今日の夕方にでもユウくんとまた鉢合わせたら、どうしたらいいのだろう。

一体、どんな顔で向き合ったらいいのだろう。

溜め息を溢すと、手も止まった。



「伊勢さん」



そのとき、背後からタイミングを計ってか、声がかかる。



「はいっ」

「来客があるので、応接室へお茶をお願いします」

「わかりました」



重い腰を渋々上げた。

事務作業の合間に、急須に触れ、お湯を注ぐことも、これが意外に気分転換となる。

画面を見て、キーボードを叩くだけのことに、どうしてこれ程までにも気疲れをしているのか。

自分で自分が、不思議でならなかった。